2007年1月24日

機本伸司 / 神様のパズル

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機本伸司さんの「神様のパズル」を読み終わりました。

卒業も就職も危うい大学4年生の綿貫がゼミで選んだのは素粒子物理研究室。
そこのでゼミのテーマとして「宇宙を作れるか?」という命題について、「作れる派」と「作れない派」に別れてディベート形式で行うことになった。

平凡な男子学生と天才少女という取り合わせはややありふれた感があるものの、この2人の会話を通して語られる物理学についての諸々のことは、なかなか興味深いものがありました。

もちろん、私は物理学については門外漢なので、専門用語などが出てきた時点でほとんどお手上げなのですが、それでも読み続けられたのは、ダメな学生である綿さんのおかげかもしれません。
彼が専門用語についての難解さをほどよく噛み砕いてくれるので、あまり用語で悩まずに物語を楽しむことができます。

人間関係の描写に物足りなさがあり、最後は無難なところへ落ち着いたなという感じは残るものの、題名である「神様のパズル」に対して正面から取り組んでいる姿に、好感を持ちました。

投稿者 utsuho : 12:21 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2007年1月11日

北森鴻 / メイン・ディッシュ

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北森鴻さんの「メイン・ディッシュ」を読み終わりました。

小劇団「紅神楽」の看板女優であるねこさんの家に同居するミケさんは料理の達人にして名探偵。
劇団をめぐって起きるちょっとしたした出来事、そしてとある大学の学生達の間に起きた事件。
この二つの出来事が短編形式で交互に組み合わさって、ひとつの流れが構成されていきます。

短編の組み合わせ方や展開の仕方も見事なものなのですが、私としては物語とは関係なく、ミケさんの作る料理に惹きこまれてしまいます。
この作品に出てくる料理の美味しそうな文章は、読んでいて胃袋が鳴ってくる思いがします。

ねこさんの一人称による、軽妙な文体もこの作品には合っていて、今まで読んできた≪旗師・冬狐堂≫シリーズとはまた違った楽しみがあります。
洒落た料理とちょっとした推理とが上手くかみ合わさった一冊です。

台所が悲惨なことになっている我が家では、ぜひともミケさんのような同居人が欲しいですね(苦笑)

 わたしの要望にこたえて、ミケさんが作ったのは、まずはたっぷりのブイヤベース。それもミケさん流の特別な一品である。ベースのスープは中華ハムと鶏ガラ、ほたての貝柱を干したものでとってある。三つの素材でそれぞれスープを作り、そこに葱の頭、大蒜を加えながらブレンドする――らしい――。中身は数種の魚介類と大根、牛蒡、人参、手羽先、セロリに加えて餅を入れた油揚げ、竹輪、うずら天など、和製野菜とおでん系食材をも組み合わせている。
 どんな日本贔屓のフランス人が食べても、これがブイヤベースであるとは思わないだろう。他の料理名を付けようがないから、便宜上使っているにすぎない。ちなみに、残ったスープにゆでた中華麺を入れると、どこかのラーメン屋の前で行列を作るのが馬鹿馬鹿しくなる。
 ただしミケさん、あまり胡椒は使わないでとだけ、念を押しておいた。劇団員の中には香辛料に弱く、喉をすぐに痛める子がいるからだ。
(北森鴻「メイン・ディッシュ」より)

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2006年12月27日

荻原規子 / ファンタジーのDNA

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荻原規子さんの「ファンタジーのDNA」を読み終わりました。
ファンタジーにまつわるいろいろなものを荻原さんの目を通して綴ったエッセイ集です。

私はファンタジー好きですが、それほど多くの作品を読んでいるわけではないので、この本で紹介されている作品の中にも、読んだことのないものが多々あるのですが、そんなことはまったく気にならないほどに楽しめました。

丁寧な作品紹介と、そこから一歩踏み込んだ荻原さん自身の考え。
すぐれた物語の読み手であり、また書き手でもある荻原さんの視点にとても感心させられました。

 物語の創作にも似たところがあるが、創造の始まりは「ひらめき」と、そのひらめきが追及に値するかどうかをさとる「直感」だという気がしてならない。
 歴史学のような文系の学問でなくとも、数学や物理学上の発見であってもおおもとは同じではないだろうか。新しい方程式が正しいという直感がまず先にあり、理論や検証は後からついてくるのでは。
 人は、既に知っていることしか発見しないとだれかが言っていたが、それはきっと本当だと、これまた直感で思うことがある。
自分の知っていた何かが、ある日突然新しく、今始めて目にしたように思え、しかも美しく興味深く、魅せられるものになったことを「発見」と呼ぶのだろう。

 しかし、直感のほうは、いったいどこからやってくるものなのだろう。
 どんなハウツー本にも答えのない、脳神経科学が解明する日もはるかに遠いと思われるものごとではある。
(荻原規子「ファンタジーのDNA」より)

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2006年12月20日

大西科学 / ジョン平と去っていった猫

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大西科学さんの「ジョン平と去っていった猫」を読み終わりました。
「ジョン平とぼくと」シリーズの2作目です。

今回は作品内の時期が春休みということで、あまりクラスメイトの出番がないのが寂しいです。
ただ、この作品世界での魔法のあり方や、主人公である重の世界のとらえ方など、前作の魅力はそのまま引き継いでいます。
そして、やっぱりジョン平はいい味を出していますね。

重を取り巻く環境も少しずつ変わってきましたし、今後が楽しみな作品です。

「ここで何してたの」
「うん。あのね」
「うん」
「追われてるの。かくまってくれる?」
 ぼくは今まで一七年間生きてきて、こんなに浮世離れした話は聞いたことがなかった。ちょっと考えてみて欲しい。あなたが春休み、部活動をしていたとする。ちょっと席を外して、戻ってきたら、そこに知らない女の子がいて、かくまって欲しいと言われる。どうだろう。どういうことを言えば一番いいのか。
「冗談だろ?」
 ぼくが言ったのは、そんなことだった。自分でも芸がないと思う。
「うーん」
 三葉はそう言うと、もう一列、チョコレートを口に入れた。ジョン平が、たいへん情けない顔でそれを見ている。それを見て、ぼくもなんだか情けなくなった。
(大西科学「ジョン平と去っていった猫」より)

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2006年12月 6日

冲方丁 / マルドゥック・ヴェロシティ(3)

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冲方丁さんの「マルドゥック・ヴェロシティ(3)」を読み終わりました。

ううん、この読み終わった後の虚脱感はどう表現すればいいのだろう。
救いのない最後になることはあらかじめわかっていたことなので、そういった虚脱感ではないのだけれど……。

やはりここは「物足りない」と素直に言ってしまった方がいいですね。

前作の「マルドゥック・スクランブル」と比べてしまうのですが、「スクランブル」でのカジノのシーンの圧巻の描写があったのに比べると、今回の「ヴェロシティ」では本当に淡々と進んでしまった分、感慨がわきませんでした。
ウフコックを濫用するにいたった経緯も、今回の敵役であるフリントとの決着のシーンも、思っていたよりもあっさりと終わってしまいました。
すべてを失っていくボイルドの痛ましさなどはよかったのですが、そのあとにちょっと蛇足的な部分があったために充分な加速感が得られませんでした。

期待が大きかったために、残念ながら厳しい感想になってしまいました。

 にこりと笑うウフコック――まるで聖なる何か。なんだかお前から、とても優しい匂いがする。きっと、事件解決の正しい道筋が見えたんだな」
「ああ」折れそうになる心を虚無が支えた――心が虚無になった。「その通りだ」
「良かった……とても嬉しい。……それにしても今日はなんだか体がだるい」ますますぼんやりとする――こちらを見つめる/瞬きを繰り返す。「何だか……ぼうっとする」
「オフィスに行くまで寝ていてもいい」
「そうか……すまない。どうも調子が悪い。気分は悪くないんだが……ボイルド?」
「なんだ?」
「俺が必要な時は起こしてくれるか?」
 ちっぽけなネズミの問い――この世の何よりも重く響く。
「ああ」うなずく――震えないよう、ゆっくりと。「もちろんだ」
 微笑み。「パートナーだものな」
 微笑み――虚無を隠して。「そうだ。お前は俺のパートナーだ」
 小さな目が閉じられる――小さな体がゆっくりと倒れる――手のひらで受け止める。
 寝息――穏やかに。
(冲方丁「マルドゥック・ヴェロシティ(3)」より)

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2006年11月30日

北森鴻 / 狐闇

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北森鴻さんの「狐闇」を読み終わりました。
≪旗師・冬狐堂≫こと宇佐見陶子を主人公としたシリーズの長編二作目です。

今回は、とある市で競り落とした青銅鏡がもとで陰謀に巻き込まれ、古物商の鑑札を失ってしまった陶子が、青銅鏡の謎を追い姿の見えない敵へ戦いを挑んでいきます。
「狐罠」とは異なり、歴史・民俗学的な色合いの濃い作品になっています。

誰が敵で誰が味方かもさだかでない状況で伏線をめぐらして罠を張り、先手を取ったつもりが後手を踏む。
今回も頭脳戦の面白さを存分に見せてくれます。
複雑な関係を持ちながら読者を混乱させずに物語に引き込んでいけるのは、北森さんの力量のおかげでしょう。
また、この作品に顔を出している人たちが主人公になっている別のシリーズがあるそうなので、そちらも読んでみたいですね。

ただ、今回も「狐罠」同様に殺人事件が蛇足に感じられてしまいました。
事件の根幹に関わる人物についての描写が弱いために、どうにも真実味が感じられないのです。
また、闇に隠された歴史を探るということで、かなりな大風呂敷を広げていますが、それがたたみきれずに消化不良に終わってしまっているところも残念です。

北森さんの文章や人物描写はかなり好みなので、次はもう少し日常的なテーマを扱った作品を読んでみたいと思います。

「要するに一目惚れって奴よ。そんな物と出会える機会は、万に一つあるかどうか。生涯そんな出会いのない野郎の方が多いかもしれねえぜ」
 芦辺はややあって言葉を続けた。
「それはきっと、幸福な出会いですね」
「出会ったのかい」
「もしかしたら、いえ……多分」
 帳場の下に置いた火鉢から煙管を取り出し、煙草を詰めた芦辺が身を屈めた。すぐに紫の煙が、股のあたりから漂う。
「幸福な出会いか。そりゃ誰にもわからねえよ。もしかしたら無間地獄の入り口に、われ知らずのうちに立っちまったのかもしれねえ」
(北森鴻「狐闇」より)

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2006年11月28日

北森鴻 / 狐罠

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北森鴻さんの「狐罠」を読み終わりました。

真作贋作の入り乱れる骨董の世界。頼れるのは己の目利きと感性のみ。
そんな世界で、特定の店舗を持たずに活動する骨董業者≪旗師・冬狐堂≫こと宇佐見陶子。
その陶子に「目利き殺し」を仕掛けて贋作をつかませた橘薫堂。
プライドの高い陶子は橘薫堂への意趣返しを決意する……。

骨董の世界や贋作の手口など内容がとても濃密で、一気に読んでしまいました。

陶子や橘薫堂はもちろんのこと、潮見老人や練馬署の犬猿コンビと、出てくる人物がいずれ劣らぬ曲者ぞろい。
騙すことすら美徳とされ魑魅魍魎が跋扈する骨董の世界で、互いに罠を仕掛けて化かしあう。
頭脳戦の醍醐味が凝縮された一冊です。

ただひとつ残念な点があるとすれば、物語の中で並行して起こる殺人事件が蛇足に感じられる点でしょうか。
これだけ濃密な虚々実々の駆け引きがあるのだから、そこに焦点を絞った方が楽しかったような気がします。

 袱紗ごと両手にとって捧げ持ち、リビングの窓から差す日の光にかざした。
 期待に荒くなっていた息が、とまった。
 頬が激しく緊張し、すぐに血の気を失った。明らかに失望とわかる影が、目の下に揺れた。
 あらゆる角度から器を眺めてみる。網膜に集中するあらゆる神経を駆使して、光と影のコントラストから器の「顔」を特定しようとする。
 爪を短く刈り詰めた人差し指の腹を、丁寧にウエットティッシュで拭い、皮脂を落として素地を撫でる。同じように唇を拭ってリップクリームを完全に落し、下唇で切子のエンボスの一つ一つをまさぐる。そこに付けられた工作のあとから、製作者の人格まで読み取ろうとする。唇の触覚と共に、ごくごく微量の薬品の匂いを陶子の鼻は嗅ぎ分けた。
「やっぱり」
 女性とは思えない低い声で、うなるようにつぶやいた。
「ヤ・ラ・レ・タ」
(北森鴻「狐罠」より)

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2006年11月22日

冲方丁 / マルドゥック・ヴェロシティ(2)

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冲方丁さんの「マルドゥック・ヴェロシティ(2)」を読み終わりました。

マルドゥック市全体を巻き込んだ事件は複雑さを帯びて混迷の度合いを深めていくのですが、どうもスクランブル-09のメンバーも、敵役となるカトル・カールのメンバーもキャラクターの個性が弱く、読んでいていまひとつ入り込めませんでした。
題名に反して、加速感がどうにも感じられないんですよね……。
前作「マルドゥック・スクランブル」でも中だるみなところがあったし、冲方さんのストーリー展開のクセなのかもしれません。

今回キャラクターとして際立っていたのは、ナタリア・ネイルズでしょうか。
彼女がニコラスと対峙する場面などはなかなかスリリングで良かったと思います。

次はいよいよ最終巻です。
限界点を超えるほどの加速に期待します。

 死者の姿を目に焼きつけ、ワン・アイド・モスに見送られて外へ。
 自分の車に手をつきながら、フライト刑事は大きく深呼吸をした。 「くそっ、敵がとち狂う速度が、加速しているように思えてならん」
 ふとボイルドは、心のどこかに転がっていたキーワードを思い出した。
「我々も同じだけ加速すればいい。速度変化と加速度の限界値を同時に突破すれば、そこが爆心地になる」
「なんだそれは? 何かのまじないか?」
「冷静さを保つためのな。 メンバーの一人に教えてもらった」
(冲方丁「マルドゥック・ヴェロシティ(2)」より)

投稿者 utsuho : 19:43 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2006年11月16日

冲方丁 / マルドゥック・ヴェロシティ(1)

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冲方丁さんの「マルドゥック・ヴェロシティ(1)」を読み終わりました。

この作品は、前作「マルドゥック・スクランブル」に至るまでの出来事を描いたもので、前作のラストシーンから始まり、「マルドゥック・スクランブル」の敵役であるボイルドの回想へと入っていきます。

軍の研究所から外界へ出て、スクランブル-09の担当官としてペアを組むボイルドとウフコック、そして仲間達。
ボイルドは努めて冷静であろうとしていたり、ウフコックは輪をかけて生真面目なところ、ドクターの容姿など、前作との対比が際立っていて、なかなか楽しめます。
まだまだ物語の序盤なので、これからそれぞれの人物がどのようにして変わっていくのかとても興味深いです。

難点をいえば、もともと冲方さんの文章はちょっと装飾過多で鼻につくところがあるのですが、今回はさらにボイルドの視点を文章で表現しようとしているために、文体が独特で読みにくいところでしょうか。
まあ、慣れてしまえばどうということもないのですが……。

この作品は3週連続で刊行されるので、まずは一通り読んでしまってから、後でゆっくり読み直すことになりそうです。

 だがウフコックは突然、希望を見出したかのように目を輝かせた。
「クリストファー教授と一緒に行けば、俺を受け入れてもらえるのか? 研究所の外に、そういう相手がいるのか? 俺を廃棄しようとする相手ばかりじゃなくて?」
 クリストファーの説明――受け入れられる/そして迎え入れられる。力を必要とする者のために働く。
 ふいにボイルドは、ウフコックに与えてやれるものを見つけたという気分を味わった。自分の新たなキャリア――その意義といったものがウフコックを通して伝わってきた。 「それ以上に、俺やおまえが必要とされるということだ」
 ウフコックが大きく目を見開いた。その小さな体が希望ではち切れそうだった。
「本当に? この俺を必要としてくれる相手が現れるなんてことがあるのか?」
「そうだ」
 意図せず浮かぶ微笑――自分の匂いを、相手と同じように感じ取れる着がした。
「おまえを必要とする者が、きっと現れる」
(冲方丁「マルドゥック・ヴェロシティ(1)」より)

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2006年10月17日

大西科学 / ジョン平とぼくと

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大西科学さんの「ジョン平とぼくと」を読み終わりました。

大西科学」といえば、科学研究によって人類の未来を開くべく日夜研究を続け、700編を超える雑文を発表している方です。
まさに「継続は力」ですね。
そして、私にとっては仕事の合間の息抜きとして重宝しているサイトでもあります(笑)

そんな大西科学さんの初の長編小説は、科学よりも魔法が重視される世界での、魔法が苦手な少年とその使い魔の物語。
意外といえば意外なのですが、やはりその世界のいたるところには大西科学さんらしさがあふれています。
それは使い魔のジョン平であったり、呪文であったり、バナナの香りであったりというところに顔を出してきます。

世界を客観視しているようでいながら、自分もその世界の一員であることを忘れない、絶妙なバランスを持った作品です。

 きみは考え過ぎるところがある。
 昔、まだぼくが中学生のときだったと思うが、そのときに聞いた、魔法課の滝沢先生のことばを思い出していた。なぜぼくは魔法がこんなに下手なんでしょうね、という質問に答えて、先生はこう言われたのだった。これは、むしろきみの美質だといえるのだが、きみは他人の気持ちを考える。クラス全体、学校全体、そして世界全体に想いを馳せて、そこでの自分の役割、というようなことを考える。そのあとで、初めて自分がどうしたいのかを考える。きみはそういう人だ。
 ぼくは、半分照れ隠しのように発せられた質問に、そんな真剣な答えが返ってきたことに少し驚いて、それから、さらに照れ隠しの質問を重ねた。そうかもしれません。でも先生、それと魔法と、どういう関係があるのでしょう。
 先生はちょっと悲しそうに眉を寄せて、ぼくの肩に、その痩せた繊細な手を置いて、そして繰り返した。
――それこそきみの美質なんだよ。
(大西科学「ジョン平とぼくと」より)

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