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2006年10月17日

大西科学 / ジョン平とぼくと

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大西科学さんの「ジョン平とぼくと」を読み終わりました。

大西科学」といえば、科学研究によって人類の未来を開くべく日夜研究を続け、700編を超える雑文を発表している方です。
まさに「継続は力」ですね。
そして、私にとっては仕事の合間の息抜きとして重宝しているサイトでもあります(笑)

そんな大西科学さんの初の長編小説は、科学よりも魔法が重視される世界での、魔法が苦手な少年とその使い魔の物語。
意外といえば意外なのですが、やはりその世界のいたるところには大西科学さんらしさがあふれています。
それは使い魔のジョン平であったり、呪文であったり、バナナの香りであったりというところに顔を出してきます。

世界を客観視しているようでいながら、自分もその世界の一員であることを忘れない、絶妙なバランスを持った作品です。

 きみは考え過ぎるところがある。
 昔、まだぼくが中学生のときだったと思うが、そのときに聞いた、魔法課の滝沢先生のことばを思い出していた。なぜぼくは魔法がこんなに下手なんでしょうね、という質問に答えて、先生はこう言われたのだった。これは、むしろきみの美質だといえるのだが、きみは他人の気持ちを考える。クラス全体、学校全体、そして世界全体に想いを馳せて、そこでの自分の役割、というようなことを考える。そのあとで、初めて自分がどうしたいのかを考える。きみはそういう人だ。
 ぼくは、半分照れ隠しのように発せられた質問に、そんな真剣な答えが返ってきたことに少し驚いて、それから、さらに照れ隠しの質問を重ねた。そうかもしれません。でも先生、それと魔法と、どういう関係があるのでしょう。
 先生はちょっと悲しそうに眉を寄せて、ぼくの肩に、その痩せた繊細な手を置いて、そして繰り返した。
――それこそきみの美質なんだよ。
(大西科学「ジョン平とぼくと」より)

投稿者 utsuho : 2006年10月17日 21:34 | 読書

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