<< 前の記事
次の記事 >>

2007年1月11日

北森鴻 / メイン・ディッシュ

[Amazon]
[bk1]

北森鴻さんの「メイン・ディッシュ」を読み終わりました。

小劇団「紅神楽」の看板女優であるねこさんの家に同居するミケさんは料理の達人にして名探偵。
劇団をめぐって起きるちょっとしたした出来事、そしてとある大学の学生達の間に起きた事件。
この二つの出来事が短編形式で交互に組み合わさって、ひとつの流れが構成されていきます。

短編の組み合わせ方や展開の仕方も見事なものなのですが、私としては物語とは関係なく、ミケさんの作る料理に惹きこまれてしまいます。
この作品に出てくる料理の美味しそうな文章は、読んでいて胃袋が鳴ってくる思いがします。

ねこさんの一人称による、軽妙な文体もこの作品には合っていて、今まで読んできた≪旗師・冬狐堂≫シリーズとはまた違った楽しみがあります。
洒落た料理とちょっとした推理とが上手くかみ合わさった一冊です。

台所が悲惨なことになっている我が家では、ぜひともミケさんのような同居人が欲しいですね(苦笑)

 わたしの要望にこたえて、ミケさんが作ったのは、まずはたっぷりのブイヤベース。それもミケさん流の特別な一品である。ベースのスープは中華ハムと鶏ガラ、ほたての貝柱を干したものでとってある。三つの素材でそれぞれスープを作り、そこに葱の頭、大蒜を加えながらブレンドする――らしい――。中身は数種の魚介類と大根、牛蒡、人参、手羽先、セロリに加えて餅を入れた油揚げ、竹輪、うずら天など、和製野菜とおでん系食材をも組み合わせている。
 どんな日本贔屓のフランス人が食べても、これがブイヤベースであるとは思わないだろう。他の料理名を付けようがないから、便宜上使っているにすぎない。ちなみに、残ったスープにゆでた中華麺を入れると、どこかのラーメン屋の前で行列を作るのが馬鹿馬鹿しくなる。
 ただしミケさん、あまり胡椒は使わないでとだけ、念を押しておいた。劇団員の中には香辛料に弱く、喉をすぐに痛める子がいるからだ。
(北森鴻「メイン・ディッシュ」より)

投稿者 utsuho : 2007年1月11日 01:00 | 読書

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
https://utsuho.mods.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/502

コメント

コメントしてください