2008年2月16日

米澤穂信 / 遠まわりする雛

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米澤穂信さんの「遠まわりする雛」を読み終わりました。
ホータロー達が高校に入学してから翌年3月までの期間についての短編を集めたものです。

これまであまり語られなかった、登場人物それぞれの心の動きが感じられてよかったです。

「やるべきことなら手短に」や「手作りチョコレート事件」ではホータローと里志の男心が描かれています。
いつも飄々とした里志の、思わぬ一面を見てしまいました。

最後の一編「遠まわりする雛」は、タイトルも好きです。
<古典部>シリーズのタイトルはどれも秀逸ですね。
えるとホータローが千反田家で顔を合わせるシーンでは、える自身の想いや、えるに対するホータローの心の動きなど、これまでとは違った関係を予感させてくれます。

投稿者 utsuho : 12:43 コメント (2) トラックバック (1) | 読書

2008年2月 7日

米澤穂信 / クドリャフカの順番

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米澤穂信さんの「クドリャフカの順番」を読み終わりました。

いよいよ始まった神山高校の文化祭。
文化祭で古典部が売り出す文集「氷菓」、30部発行の予定が手違いで200部も刷られてしまった。
これをどうにか売りさばこうと古典部の面々が頑張るのだが……。

古典部の四人がそれぞれ自分の事情を抱えながらも、自分のできることを考えて動いているのがよかったです。
ホータローは相変わらずの省エネ主義でしたが。
わらしべプロトコルや「十文字」事件などいろいろな要素が絡まりながら進んでいくのが面白くて、つい惹き込まれました。

そして、終盤に差し掛かるにつれて、それぞれが感じる「期待すること」への苦い思い……。
このなんともいえない読後感も、米澤作品の魅力です。

それにしても、毎度のことながらホータローの姉は謎の人ですね。
今回もほとんど姿は見せないのに重要な役割をさらりと持っていきました。

投稿者 utsuho : 23:37 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2008年2月 4日

野尻抱介 / 沈黙のフライバイ

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野尻抱介さんの「沈黙のフライバイ」を読み終わりました。
近未来の世界を題材とした短編集です。

本格的、というのでしょうか。
設定が緻密に練りこまれていて、もしかしたら数年後には実現されるかもと思わせるほど、リアリティがあふれていました。
まあ、私自身科学用語にはうといのでわからない単語も多かったのですが、それでもこんな感じなのかな、と雰囲気で楽しめました。

どの物語も明確な結末が示されないので作者に突き放された感じが残りますが、すぐそこに見えそうな未来を感じさせてくれる力強さのある作品です。

投稿者 utsuho : 23:17 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2008年1月21日

北森鴻 / 瑠璃の契り

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北森鴻さんの「瑠璃の契り」を読み終わりました。
宇佐見陶子を主人公とした<旗師・冬狐堂>シリーズの短編集です。

「倣雛心中」と「黒髪のクピド」は無理矢理にミステリを作ったようでちょっと好きになれませんでしたが、「苦い狐」と「瑠璃の契り」はよかったです。
特に「苦い狐」での陶子が胸に抱くさまざまな想いは、骨董の世界の虚々実々の駆け引きとはまた違ったよさがありました。

美に対する陶子の真摯な姿勢は、読んでいて清々しいものがあります。

投稿者 utsuho : 22:41 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2008年1月15日

上橋菜穂子 / 夢の守り人

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上橋菜穂子さんの「夢の守り人」を読み終わりました。

今回はバルサよりもまわりの人々の視点に立った話でした。
特にタンダやトロガイといった呪術師や、いわゆる普通の村人達が心に持つ思いなどが感じられました。
読んでいて今の我が身に重ねてしまうところもあり、胸にくるものがありました。

リー・トゥ・ルエン<木霊の想い人>であるユグノについての描写が平板だったのが少々残念ですが、
チャグムやシュガといった以前に出てきた人たちとの再会もあり、大呪術師トロガイの過去も明かされたりと、シリーズとしての世界の厚みもだんだんと増してきました。

投稿者 utsuho : 22:10 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2007年11月29日

大西科学 / ジョン平とぼくときみと

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大西科学さんの「ジョン平とぼくときみと」を読み終わりました。
「ジョン平とぼくと」シリーズの短編集です。

「ジョン平と一つの指輪」ではこっそりいなくなっていたトルバディンが「タンスターフルの食卓」では陰ながら活躍していたりと、短編ごとのちょっとしたつながりがよかったです。
「クスクスは夕陽を浴びて」では学園祭ならではのドラマが詰めこまれてました。

ジョン平や重だけでなく、三葉や寧先生といった人たちの話が読めたのは嬉しいですね。

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2007年11月14日

近藤史恵 / タルト・タタンの夢

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近藤史恵さんの「タルト・タタンの夢」を読み終わりました。

下町にある「ビストロ・パ・マル」はシェフを含めて従業員4人という、小さなフレンチ・レストラン。
出される料理もおしゃれに気取ったものではなく、本当にフランス料理が好きな人たちが通う店。
そんなレストランで繰り広げられる、ちょっとしたミステリが七編。

フランス料理というと、こってりとしたものが思い浮かぶけれど、この本に出てくるミステリはどれもほどよい重さで、楽しくいただくことができました。
どの作品もよかったのですが、特に「オッソ・イラティをめぐる不和」「ぬけがらのカスレ」が気に入りました。

そして、風変わりな三舟シェフの作る料理はどれも美味しそうですね。
鋳鉄の鍋に入った豚足とレンズ豆の煮込み、トリュフの香りのするロニョン・ド・ヴォー、さくさくのタルトの上にキャラメル状のりんごが乗っているタルト・タタンなどなど……。
お洒落なフランス料理なんてまったく縁のない私ですが、「ビストロ・パ・マル」の料理は味わってみたいものです。

投稿者 utsuho : 21:49 コメント (2) トラックバック (1) | 読書

2007年10月10日

森見登美彦 / 有頂天家族

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森見登美彦さんの「有頂天家族」を読み終わりました。

「阿呆の血のしからしむるところ」に従って、京の街を跋扈する狸たち。
下鴨家の兄弟4匹の、性格はまったく違うけれど、みんなしてどうにも地に足の着かない感じがよかったです。

弁天様や赤玉先生、金閣、銀閣など登場人物の誰もが面白くて魅力的でした。
狸、天狗、人間が絡まりながら、金曜倶楽部の忘年会へと向けて加速していく様子に、どんどんと引き込まれてしまいした。

笑いあり涙ありの、愛すべき毛玉たちの物語です。

投稿者 utsuho : 23:12 コメント (2) トラックバック (3) | 読書

2007年9月27日

畠中恵 / しゃばけ

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畠中恵さんの「しゃばけ」を読み終わりました。

廻船問屋と薬種屋を営む長崎屋は江戸でも有数の大店。
そこの若だんなの一太郎はなにかというとすぐに寝込んでしまう病弱さ。
そんな病弱な若だんなが手代たちにも内緒でひとり出かけたときに、事件にまきこまれてしまう。

若だんなと幼なじみの栄吉とのやりとりや、仁吉や佐助をはじめとした妖たちのふるまいなどが活き活きと描かれていて面白かったです。
文章が丁寧で読みやすくてよかったので、次の作品も読んでみようと思います。

ただ、話の進み具合が一本調子だったのが残念です。
欲をいえば、もう少し話の流れに緩急や盛り上がりがほしいところでした。
この辺は、次の作品に期待します。

この物語を読んでいるときに、「ももとせに ひととせたらぬ つくもがみ」なんていう歌を思い出してしまいました。
でも、これはすこし意味が違いますね。

投稿者 utsuho : 23:52 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2007年9月14日

近藤史恵 / サクリファイス

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近藤史恵さんの「サクリファイス」を読み終わりました。

 かちり、とシューズがビンディングペダルにはまった。
 こぎ出す瞬間は、少し宙に浮くような、頼りない感覚。だが、それは二、三度ペダルを回すだけで消える。
 ホイールは、歩くよりも軽やかに、ぼくの身体を遠くまで運ぶ。サドルの上に載った尻など、ただの支えだ。緩やかに回すペダルと、ハンドルで、ぼくの身体は自転車と繋がる。
 この世でもっとも美しく、効率的な乗り物。
(近藤史恵「サクリファイス」より)

どうでしょう、ロードレーサーに乗っている人であれば、この文章を読んだだけで共感するものは多いのではないでしょうか。

また、自転車ロードレース特有の「エース」と「アシスト」という関係も物語の重要な点として絡んできます。
主人公の白石誓は勝利を目指すよりも、アシストとしてエースのために尽くすことに喜びを感じていたが、そうした誓の思惑に関わらず、周囲から実力を認められていく。

そして、ヨーロッパのステージレースの最中に起こった事件……。

自転車ロードレースの魅力もたっぷりと詰め込まれ、ミステリとしての物語の展開もよかったです。
近藤史恵さんの作品を読んだのはこれが初めてですが、とても綺麗な文章を書く方だと思いました。

ロードレースファンはもちろん、そうでない人にも読んでもらいたい作品です。

投稿者 utsuho : 23:54 コメント (2) トラックバック (2) | 読書