2007年9月11日

奈須きのこ / DDD2

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奈須きのこさんの「DDD2」を読み終わりました。

感染者の精神だけでなく肉体をも変貌させる奇病、通称「悪魔憑き」と呼ばれる患者達。
人間の域を逸脱した彼らが、なぜか今回は野球なんぞに興じています。
前作からするとあまりに唐突な展開に、少々眩暈がしてしまいました。

今回はカイエの出番は少なめでしたね。
石杖アリカと呑気に野球盤で遊んでいるシーンなどはなごむのですが、ところどころに気になる描写もありました……。

そして、後半ではまたも唐突に物語が動きましたね。
「悪魔憑き」を殲滅してオリガを出た石杖カナタの今後の動向が楽しみです。

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2007年8月14日

森見登美彦 / 太陽の塔

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森見登美彦さんの「太陽の塔」を読み終わりました。

京の街を舞台に繰り広げられる男たちの妄想と暴走の饗宴。
黒々とした男汁で煮しめたような、汁気のある文章がとても楽しかったです。

飾磨や高藪、水尾さんといった登場人物もみな個性豊かに京の街をにぎわしてくれます。

森見さんの文章は独特のテンポがありますね。
すんなりと読める文章でありながら、ところどころで重たい一撃を放ってくる絶妙なバランスにすっかりやられました。

「つねに新鮮だ」
 そんな優雅な言葉では足りない。つねに異様で、つねに恐ろしく、つねに偉大で、つねに何かがおかしい。何度も訪れるたびに、慣れるどころか、ますます怖くなる。太陽の塔が視界に入ってくるまで待つことが、たまらなく不安になる。その不安が裏切られることはない。いざ見れば、きっと前回より大きな違和感があなたを襲うからだ。太陽の塔は、見るたびに大きくなるだろう。決して小さくはならないのである。
 一度見てみるべきだとは言わない。何度でも訪れたまえ。そして、ふつふつと体内に湧き出してくる異次元宇宙の気配に震えたまえ。世人はすべからく偉大なる太陽の塔の前に膝を屈し「なんじゃこりゃあ!」と何度でも何度でも心おきなく叫ぶべし。異界への入り口はそこにある。
(森見登美彦「太陽の塔」より)

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2007年8月 7日

米澤穂信 / 愚者のエンドロール

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米澤穂信さんの「愚者のエンドロール」を読み終わりました。

夏休みも終盤に差し掛かった頃、折木奉太郎たち古典部のメンバーは千反田えるに誘われて、二年F組のビデオ映画の試写会へ行く。
しかし、そこで見せられたミステリー映画は、途中で途切れてしまっていた。
聞けば脚本を担当していた生徒が途中で倒れてしまったために、そこから先の展開がわからなくなってしまったという。
そこで、この映画にどのような結末が用意されていたかを探るべく、古典部のメンバーが「探偵役」を引き受けることになる……。

「女帝」入須先輩の冷徹かつ情のある差配は見事のひとことにつきますね。
今回は奉太郎だけでなく、古典部のメンバーそれぞれが持ち味を出していました。
「三人寄れば~」とは言いますが、古典部のメンバーは4人揃うことでお互いの長所が活きてくるように思えます。
そして、もはや米澤作品ではおなじみである、苦味の残る結末もちゃんと用意されています。

それにしても、奉太郎の姉は地球の裏側からでも奉太郎を思うように動かしてしまうとは、恐るべき人物です。

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2007年8月 5日

米澤穂信 / 氷菓

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米澤穂信さんの「氷菓」を読み終わりました。

省エネを自称し何事にも積極的に関わろうとしない折木奉太郎が、姉からのエアメールを機に廃部寸前になっている「古典部」へ入部することになり、そこで出会った千反田えるや、奉太郎の友人達と一緒に、古典部の文集「氷菓」にまつわる謎に関わることになる。

好奇心旺盛なえるに振り回される様子や、学校内のちょっとしたミステリーから、やがて、三十三年前に高校で起きた事件へと近づいていく展開など、順序だてもよく楽しめました。
最後に明かされる「氷菓」の意味に込められた苦い思いなど、やや軽めの文章とは裏腹に内容には重たいものがありました。

ただ、「小市民」シリーズもそうなのですが、奉太郎が折に触れて自分のモットーを標榜するのが少々気になりました。
わざわざ自分のモットーを持ち出すような高校生なんて、そういないと思うのですが……。

投稿者 utsuho : 12:49 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2007年7月31日

森見登美彦 / 四畳半神話大系

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森見登美彦さんの「四畳半神話大系」を読み終わりました。

人生においては常に大小さまざまな選択を迫られる。
今日のお昼に何を食べるかということだったり、あるいは大学1年生の時にどのサークルに入るべきかということであったり。
そんな人生の岐路に対して「もしもあの時、別のものを選んでいたら……」を描いた物語です。

今回も、登場人物はとても魅力的でした。
浴衣姿で超然と暮らしている樋口さんに酔っては顔を舐めたがる羽貫さんのコンビ。人の不幸でご飯を3杯は食べられるという小津。歯に衣着せぬ物言いと凛としたたたずまいを見せる明石さんなど、個性豊かな人たちが京の街をにぎわしています。

2章・3章で物語の仕掛けがわかってしまうせいで、少々中だるみしている感は否めませんが、4章で上手くまとまっていて面白かったです。
猫ラーメン、超高性能亀の子束子、香織さんに蛾の大群など、森見さんの物語にでてくるものはなかなか一筋縄ではいかないものばかりです。

投稿者 utsuho : 23:25 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2007年7月21日

森見登美彦 / きつねのはなし

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森見登美彦さんの「きつねのはなし」を読み終わりました。

この世のものではないものについて、その正体を明かさないでありのままに描いた感じがします。
それは人の形をしていたりケモノの姿であったりしますが、得体の知れない何かが持つ確かな存在感と、読んだ後までまとわりついてくるような収まりの悪さを持った作品でした。

特に表題作である「きつねのはなし」は不思議な作品でした。
天城さんの薄気味悪さやナツメさんの翳りのある立ち居振るまいなど、登場人物がそれぞれ際立っていて、京の街の持つ独特の空気とあいまって、より謎めいた雰囲気を醸しだしています。

日常にありふれているものとの因果について、ちょっと考えてしまいますね。

投稿者 utsuho : 11:15 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2007年7月 4日

梨木香歩 / 家守綺譚

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梨木香歩さんの「家守綺譚」を読み終わりました。

四季のうつろいを感じさせる、匂い立つような文章がとても印象的でした。
行方不明となった友人の実家をあずかることとなった主人公が身のまわりのできごとをありのままに受け入れる様子や、犬のゴローとのつかず離れずの関係など、ただそこにあるものを楽しむことができました。

主人公に惚れるサルスベリや信心深い狸など、怪異と言ってしまってはもったいないような、この国に昔から伝わっていた自然とのつきあいが感じられて、一編一編の情景がまるで一幅の絵のように目の裏に浮かんでくる作品です。

 ――サルスベリのやつが、おまえに懸想をしている。
 ――……ふむ。
 先の怪異はその故か。私は腕組みをして目を閉じ、考え込んだ。実は思い当たるところがある。サルスベリの名誉のためにあまり言葉にしたくはないが。
 ――木に惚れられたのは初めてだ。
 ――木に、は余計だろう。惚れられたのは初めてだ、だけで十分だろう。
 高堂は生前と変わらぬ口調でからかった。
(梨木香歩「家守綺譚」より)

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2007年6月27日

森見登美彦 / 夜は短し歩けよ乙女

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森見登美彦さんの「夜は短し歩けよ乙女」を読み終わりました。

姉より教わった「おともだちパンチ」を奥の手に京都の町を軽やかに歩く黒髪の乙女と、彼女に思いを寄せてただひたすらに追いかける先輩の物語。

黒髪の乙女の颯爽とした姿がとても愛らしく、惹き込まれました。
羽貫さん、樋口さんをはじめとした登場人物もみな活き活きとしていて、偽電気ブランや緋鯉のぬいぐるみなどの小道具も、この摩訶不思議な世界を盛り上げてくれました。

最後にはすがすがしいほどの神様の御都合主義もあり、とても楽しかったです。

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2007年6月18日

大西科学 / ジョン平とぼくらの世界

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大西科学さんの「ジョン平とぼくらの世界」を読み終わりました。
「ジョン平とぼくと」シリーズの3作目です。

ブラウ、ロオトと続いてきた兵器としての使い魔にまつわる陰謀も、全体が明らかになりました。
作品世界における「近代化」の話や、聴覚と視覚の違いの話なども面白かったです。
ただ、物語も佳境に入る後半部分が少々駆け足で過ぎていったのが残念ですね。
重には高校生らしくもっと悩んで欲しかったのですが……。

今回で「ジョン平とぼくと」は一区切りだそうです。
3作で終わる潔さは大変好ましいですが、やはり少し寂しいですね。
またいつか重とジョン平に会える日を楽しみにしています。

「しげる」
「何?」
「うん」
 気がつくと、ジョン平は、ぼくを見上げていた。ジョン平は、黒い瞳でぼくのことをじっと見て、目を動かさない。ぼくも、ジョン平の目を見返した。
「さんぽ」
「うん」
「さんぽ、しようね」
「ああ、わかってるよ」
「いつ、までも、ね」
「えっ」
「いつまでも、さんぽしよう、しげる」
 いつまでも、さんぽしよう。何を言い出すのか、とぼくはおかしかった。おかしかったが、ついに、笑うことはできなかった。ジョン平は、真剣に言っているようだったから。
(大西科学「ジョン平とぼくらの世界」より)

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2007年6月15日

森見登美彦 / [新釈]走れメロス 他四篇

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森見登美彦さんの「[新釈]走れメロス 他四篇」を読み終わりました。
「山月記」や「桜の森の満開の下」など著名な短編を元にしながらも、しっかりと独自の世界が形作られています。

その中でも、「走れメロス」は特に楽しめました。
友情を証明するためにひたすら走る芽野の姿と、文章の端々にあらわれる破廉恥きわまる桃色ブリーフ。そして何故か印象に残っている須磨さんの猫炒飯。
思わずページを繰る手も早くなりました。

「桜の森の満開の下」は原文を知らないので比較はできませんが、これも印象的な作品でした。
満開の桜の花と対照的な空虚さが文章全体からにじみ出ているようです。
この作品の元となった坂口安吾の作品も気になりますね。

森見さんの作品を読むのはこれが初めてなのですが、独特の文章のテンポもよく、他の作品も読んでみたくなりました。

投稿者 utsuho : 22:38 コメント (2) トラックバック (0) | 読書