2009年8月13日

有川浩 / 三匹のおっさん

三匹のおっさん

有川浩さんの「三匹のおっさん」を読み終わりました。

定年退職して嘱託となった剣道家のキヨ、居酒屋の元亭主の柔道家の重雄、工場経営者で頭脳派の則夫という、やや時間をもてあました「三匹のおっさん」が始めた趣味は、街の平和を陰から守る正義の味方。

アミューズメントパークの不正経理、町内に出没する痴漢、学校内で発生した動物虐待など身近な事件を題材にして、三匹が解決していく様子は爽快でした。
若々しさを持ったお年寄りという、なかなかに難しい要素を上手く表現しているなあと思いました。
そして、有川さんの作品には欠かせない恋愛要素もばっちり入っていました。素直じゃない祐希と徐々に大胆になっていく早苗との、初々しいやりとりもよかったです。

挿絵にはじーばーを描かせるならこの人、須藤真澄さん。
ますびさんの描く三匹と有川さんの文章は相通じるものがありますね。

いろいろな年代で楽しめる、いまの有川さんの持つ勢いを感じさせる一冊です。
追記……エレクトリカル・パレードは怖すぎます(笑)

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2009年8月11日

大西科学 / 晴れた空にくじら 2 戦空の魔女

晴れた空にくじら 2 戦空の魔女 (GA文庫)

大西科学さんの「晴れた空にくじら 2 戦空の魔女」を読み終わりました。

日本へ戻った後、召集されて鯨軍へと編入された雪平たち。
《かもた丸》を改装した鳥雷鯱《峰越》の乗組員として、鯨軍の作戦を遂行していた。

今回ものんびりとした会話と緊迫した軍鯨の戦いが面白かったです。
クニと雪平の仲ははたして進展していくのか!?

アンドレイとクニお互いに因縁の相手ということになるのでしょうか。
期せずしてどんどんと功績が大きくなってしまっている雪平たちの今後も気になります。

しかし……、夏夜の外見とか下手に特徴出そうとしなくてもいいと思うんだけどなあ。
大西科学さんのキャラクターには、無理なビジュアルに頼らなくても独特の味がありますしね。

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2009年8月 2日

荻原規子 / RDG2 レッドデータガール はじめてのお化粧

RDG2  レッドデータガール  はじめてのお化粧 (カドカワ銀のさじシリーズ)

荻原規子さんの「RDG2 レッドデータガール はじめてのお化粧」を読み終わりました。

東京都下の私立高校「鳳城学園」へと進学した泉水子。
泉水子は真響、真夏の二人の友人を得て、新しい生活を送り始める。

陰陽師の力を持つ高柳一条との争いなどは、荻原さんの書く学園異能バトルという感じで楽しかったです。
呪いの文言や、高尾山の神仏習合の話など、荻原さんはよく調べているなあと感心してしまいます。
高尾山は私の住んでいるところからもそう遠くないので、機会を見つけて行ってみたくなりました。

「鳳城学園」が作られた目的、絶滅危惧種に対する保護など、少しずつ世界があらわになってきました。
泉水子と深行のこれからなど、まだまだ先の楽しみなシリーズです。

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2009年7月22日

米澤穂信 / 儚い羊たちの祝宴

儚い羊たちの祝宴

米澤穂信さんの「儚い羊たちの祝宴」を読み終わりました。

作品全体にただよう仄暗く頽廃的な雰囲気にすっかり呑み込まれました。
この雰囲気は、各作品に共通して登場する読書会「バベルの会」の持つ空気でもあるんですね。

「玉野五十鈴の誉れ」と「儚い羊たちの晩餐」は特に良かったです。
「玉野五十鈴の誉れ」では純香と五十鈴の微笑ましい交流から、最後の一行にいたるまでの流れがすばらしくて、打ちのめされるようでした。

そして、全体にただよう仄暗さのクライマックスとしての、最後の「儚い羊たちの晩餐」。
アミルスタン羊という言葉は初めて知りました。
儚い夢想に饗された憐れな羊たち。厨娘の夏さんがアミルスタン羊料理を紹介するシーンでは料理を頭に思い浮かべてしまって戦慄が走りました。

米澤さんは一人称の使い方がとても上手で、各短編の主人公の視点や感性が物語の雰囲気に反映されていると思いました。
暑い季節に、ちょっと背筋が涼しくなるような一冊です。

投稿者 utsuho : 21:56 コメント (2) トラックバック (0) | 読書

2009年6月 8日

森見登美彦 / 恋文の技術

恋文の技術

森見登美彦さんの「恋文の技術」を読み終わりました。

研究のために京都を離れ能登鹿島臨海実験所へと行くことになった男が、文通武者修行と称して、恋路に迷う友人へ、あるいはかつての教え子へ、あるいは京都に住まう偏屈作家へと方々へ手紙を送る。
目指すところは恋文代筆業の起業か、愛しい人への恋文か……。

守田氏の一方的な視点でありながら、返信まで想像されて、刻一刻と変わっていく状況に声を出して笑ってしまいました。
特に大塚緋沙子女史との手に汗握る戦いと、本質をつく妹とのやりとりが面白かったです。

相変わらずの京都周辺に限られてしまう狭い世界のモリミーワールドなのですが、こういう視点は新鮮でした。
実際には出てこないけれど個性的な登場人物の皆さんも素敵です。

今回の作品に出てきた「天狗ハム」、なんと金沢に実在するメーカーなんですね。

投稿者 utsuho : 21:41 コメント (2) トラックバック (0) | 読書

2009年6月 7日

大西科学 / 晴れた空にくじら 浮船乗りと少女

大西科学さんの「晴れた空にくじら 浮船乗りと少女」を読み終わりました。
大西科学さんの新シリーズです。

大空に暮らす巨大な生物「浮鯨」のいる世界。
浮鯨から採れる浮珠を使い、人々もまた空に浮く船「浮船」を作って空を航行している、そんな世界。

浮船の原理など細かい設定は、少々説明っぽいところもありますが、しっかりと世界が作られている気がしました。
切羽詰った状況にもどこかのんびりした雰囲気は、作者の持つ雰囲気でしょうか、それとも主人公の雪平の持つ雰囲気でしょうか。

始まったばかりの物語、これからどこへ向かっていくのか楽しみです。

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2009年5月26日

有川浩 / 空の中

有川浩さんの「空の中」を読み終わりました。

四国沖の高度二万メートルの上空で相次いで起こった航空機爆発事故。
この事故で自衛隊のパイロットであった父親を亡くした瞬は、仁淀川の河原で不思議な生物を拾う――。

高巳と光稀をはじめとした「白鯨」とのパートと、瞬と佳江の「フェイク」とのパートとが相互に関係しあって進んでいく様子に、いったいどこに向かっているんだろうと先が気になり、ついついページを繰る手がはやくなります。

有川さんは登場人物を本当に活き活きと描写しますね。まるでそこに実際に登場人物たちがいるかのようです。
瞬や佳江の、まだ子供なのだけれどもそこから抜け出そうともがく姿などがよかったです。
高巳は少々達観しすぎている気はしましたが……。

有川さんの描く「未知との遭遇」は、まるで映画のようで楽しかったです。

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2009年4月17日

有川浩 / 阪急電車

有川浩さんの「阪急電車」を読み終わりました。
阪急今津線を舞台にして、宝塚駅から西宮北口駅へ、そして折り返してまた宝塚駅へと戻ってくるかたちで書かれた連作短編集です。

電車から見える風景がもとになって恋が始まる男女がいれば、バカ話に興じる女子高生を見て決意を固める女子大生など、登場人物それぞれの悲喜交々の人生模様が描かれます。

ひとつひとつ短編が微妙に交わりながら、阪急電車は走っていきます。

有川さんの恋愛表現は少し直接的過ぎるところがあるのが難点ですが、沿線の様子や登場人物などが丁寧に描写されていて、さっぱりと楽しめる一冊です。

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2009年3月20日

誉田哲也 / 武士道セブンティーン

誉田哲也さんの「武士道セブンティーン」を読み終わりました。

剣道の名門である福岡東高校で早苗がであったのは、勝利至上主義ともいえる環境。
福岡東で親しくなった黒岩レナの競技としてとらえる剣道に、どこか違和感を覚える早苗。

今回は、お気楽不動心とも言われた早苗の心の動きが細かく描かれていたのがよかったです。
一方で香織は後輩の世話であったり、やっかいごとに巻き込まれたりと、いろんなことに関わって、前作よりも少しだけ大人になった感じがします。
なんだかんだ言っても、香織はけっこう世話焼きですね。

今回はスポーツでもなく、暴力でもない、剣道を剣道たらしめるものとして「武士道」が語られています。

香織と早苗、それぞれの剣風からもう少し進んで、その根元にあるものを意識させられました。
この二人は離ればなれであっても、お互いの信じる剣道を通してつながっているんだなあと思いました。

投稿者 utsuho : 11:54 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

米澤穂信 / 秋期限定栗きんとん事件(上・下)

米澤穂信さんの「秋期限定栗きんとん事件」を読み終わりました。
今回は、<小市民>シリーズ初の上下巻です。

前作のラストで互恵関係を解消し、違う道を歩くことになった小鳩君と小佐内さん。
小鳩君は仲丸さんという活発で明るい女性と、小佐内さんは瓜野君という新聞部所属の後輩と付き合うことに。

小鳩君が、仲丸さんと普通のデートを繰り返したり、小佐内さんが瓜野君のためを思って動いていたり、目指しているところの<小市民>の座を射止めたかのように見えます。

そんな中、市内で連続放火事件が発生。だんだんとエスカレートしていく事件に小佐内さんの影がちらついて……。

離ればなれな小鳩君と小佐内さんに落ち着かないものがありましたが、少しずつ糸が交わってくるようで面白かったです。
一年間めぐりめぐって二人がたどり着いた結論もよかったです。

それにしても、小佐内さんが恐ろしすぎる……。

この本を読んで、初めておせち料理に出るもの以外の「栗きんとん」があることを知りました。
万感の思いをこめて栗きんとんに接する小佐内さんの様子を見て、とても興味をそそられました。
中津川市では和菓子屋さんが集まって「栗きんとんめぐり」なるものをやっているそうですね。いつか行ってみたいものです。

投稿者 utsuho : 11:27 コメント (0) トラックバック (0) | 読書