2009年2月17日

誉田哲也 / 武士道シックスティーン

誉田哲也さんの「武士道シックスティーン」を読み終わりました。

宮本武蔵を我が師と仰ぎ、勝つことに執着する香織と、勝負よりも剣道を楽しむことを意識している早苗の対照がよく出ていました。

私も中学・高校と剣道部にいたこともあり、部活動の頃を懐かしく思い出しました。
まあ、私の場合はあそこまでまっすぐでも楽しんでもいませんでしたが……。
そんな私が読んでも感心してしまうほど、細かいところまでよく描写されていていました。きっとしっかりした取材をしたのでしょう。

香織と早苗がそれぞれ悩み、葛藤していく姿もよかったです。
続編「武士道セブンティーン」も出ているそうなので、今後の二人がどうなっていくのか楽しみです。

ちなみに、本の栞紐が剣道のたすきに見立てて紅白の2本になってました。
芸が細かいですね。

投稿者 utsuho : 22:36 コメント (2) トラックバック (0) | 読書

2009年2月11日

小川糸 / 食堂かたつむり

小川糸さんの「食堂かたつむり」を読み終わりました。

失恋の衝撃で声の出せなくなった倫子は、唯一手元に残った祖母の形見であるぬか床を抱えて実家に戻り、そこで「食堂かたつむり」を始める。
メニューはなく、予約は一日一組だけ。
そして、そこで食べた人には幸せが訪れるという噂……。

私はいつも「美味しい物語を読みたい」と思っているのですが……。
残念ながらこの物語は口に合いませんでした。
なので、いつもよりも辛めの感想になっています。

あまりに現実感が感じられませんでした。能書きだけを見せられている感じ。
何の伏線もなく唐突に展開される物語と、出てくる人たちがみんな「いい人」という設定。
すべて状況説明のみで済まされている気がして、そこに真剣味というか本当に人間が生きている様子が感じられませんでした。
これでは、物語に入り込むのはちょっと無理でした……。

出てくる食材や料理は美味しそうなんですけど……、料理で言うなら塩味が足りないというところでしょうか。
きっと、この物語を楽しむには、もうちょっと純粋さが必要なんでしょうね。

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2009年2月10日

有川浩 / 海の底

有川浩さんの「海の底」を読み終わりました。

横須賀基地で開催される「桜祭り」の最中、突如として巨大な甲殻類の大群が襲来。停泊中の潜水艦「きりしお」に逃げ込んだ少年少女たちの運命やいかに?

有川さんの描く怪獣モノ、面白かったです。

「きりしお」に閉じ込められた子供たちの圧迫感や摩擦、無力感と戦いながらも奮闘する機動隊など見どころが沢山あって堪能しました。
夏木と望のお互いを意識しあった感じもいいのですが、個人的には圭介が最後に多少なりとも救われたことがよかったです。

「きりしお」側と機動隊側とが物語として分断されてしまったせいで、焦点がややぼやけてしまった感もありますが、登場人物それぞれが丁寧に描かれていているので、しっかりと有川さんの世界に入り込めました。

さて、横須賀へレガリス饅頭でも買いに行くかな……。

投稿者 utsuho : 22:23 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2009年1月21日

近藤史恵 / ふたつめの月

近藤史恵さんの「ふたつめの月」を読み終わりました。

久里子はファミレスでのバイトを辞め、服飾雑貨の輸入会社で契約社員として働いていたけれど、ある日突然解雇を言い渡される。
家族にもそのことを伝えられないまま心苦しい日々を送る久里子が、犬の散歩をしている途中に赤坂老人と再会して……。

「賢者はベンチで思索する」の続編です。
今回は謎解きというよりも久里子自身の葛藤に焦点があたっていました。
大変な目にあっていても、それでも世界は回っていくし、人と人とは意外なところでつながっている。
そして、世界は思っているよりも少しだけ優しいということを、語りかけているような気がしました。

投稿者 utsuho : 21:37 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2009年1月17日

有川浩 / 別冊 図書館戦争 II

有川浩さんの「別冊 図書館戦争 II」を読み終わりました。
「図書館戦争」シリーズのその後をあつかったスピンアウト小説です。

「もしもタイムマシンがあったら」では、まさかの緒形副隊長の話。
深く考えていなかったこと、ほんの少し勇気が足りなかったことなどが、ある日突如として見せつける現実というのは、なかなかに厳しいものがあります。
緒形と進藤が徐々に打ち解けていく様子もよかったです。

そして、最後の「背中合わせの二人」は気になるあの二人の話です。
これは怖い。何が怖いって相手の正体がわからないこと。何者かはわからないけれど、確実に襲ってくる危機。
そんな中でも弱みを見せまいとする柴崎と、不器用ながらもしっかりと気遣っている手塚。あれだけ恋愛に疎かった手塚もいい男に成長しましたね。
どうにかこの二人もハッピーエンドで締めくくられました。

「図書館戦争」シリーズもこれで最後。
主役だけでなく脇を固める人たちもしっかりと描かれて活き活きと動き回り、また、他人事でない身近な社会問題なども取り入れていて、とても内容の濃いシリーズでした。

投稿者 utsuho : 14:48 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2009年1月12日

有川浩 / 別冊 図書館戦争 I

有川浩さんの「別冊 図書館戦争 I」を読み終わりました。
「図書館戦争」シリーズの最後からエピローグの間をあつかったスピンアウト小説です。

最初から最後まで、ベタ甘ラブコメ全開です。
いやーこれは甘いわ……本からだだ甘のシロップがしたたり落ちるようです。
堂上と郁のじりじりとするような関係には、柴崎ならずともやさぐれたくなります(笑)

もちろん、郁や堂上だけでなく、脇をかためる人たちも相変わらず活き活きと動いています。
特に堂上の妹さんのはじけっぷりがよかったです。家族から愛されてのびのび育ったんだろうなあと想像してしまいました。

もちろん、ベタ甘な中でも世界は回っていくわけで、些細と言うにはちょっと大きい事件は起こり、読んでいる側にも小さな波紋を投げかけてきます。
有川さんは外伝や後日談のような話を作るのが本当に上手いと思います。
これもしっかりとした人物描写ができているからなんでしょうね。

投稿者 utsuho : 17:57 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2009年1月 3日

有川浩 / クジラの彼

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有川浩さんの「クジラの彼」を読み終わりました。
自衛官の恋愛をテーマにした短編集です。

「クジラの彼」は会話のセンスといい、日に日に増していく状況のつらさ、お互いの心情の揺らぎなどが胸にきました。

「ロールアウト」は、あまり入り込めなかったです。
たかがトイレくらいでという気持ちが先に立ってしまった……、想像力が足りないのかしらん。

「有能な彼女」の夏木と望のような会話は、ものすごく体力を使うと思います。
有川さんは、こういう言葉のやり取りの中でのすれ違いを描くのが上手です。

気に入ったのは、「脱柵エレジー」ですね。
やさぐれた清田二曹の体験談や、吉川三曹とのコンビネーションの妙がよかったです。

「海の底」や「空の中」の番外編もあるので、本編も読んでみたくなりました。
そして、巻頭にある徒花スクモさんのイラストも、華があって涼しげでとても良かったです。

あとがきの中で、有川さんは「活字でベタ甘」と開き直っていますが、甘いだけじゃ恋愛は扱えないということまでもきちんと描いているのが、有川さんの濃やかだと思います。
そう考えると、そこまで含めてのベタ甘なのかな?

投稿者 utsuho : 15:31 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2008年12月15日

荻原規子 / RDG レッドデータガール はじめてのお使い

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荻原規子さんの「RDG レッドデータガール はじめてのお使い」を読み終わりました。

泉水子は修験道の霊場である玉倉神社に住む中学生。
腰まである長いお下げ髪や引っ込み思案の性格で、周りの人たちから変わり者と思われている自分を変えたいと思い、前髪を切ってみたことがきっかけで、物語が少しずつ動き始め……。

荻原さんの新作は現代日本を舞台に、修験道をテーマにしたファンタジーです。
修験道……、名前としては知っていますが、それがどんなものなのかは全然知りません。荻原さんはどういう解釈を入れてくるのでしょうか。
泉水子が自分の持つ力を少しずつ自覚し、雪政や深行たちと関わっていくことでどのように変わっていくか、また、いまだ謎に包まれたままの泉水子の両親についても気になります。

まだまだシリーズの序盤ですので、今後どうなっていくのか楽しみです。

投稿者 utsuho : 14:28 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

有川浩 / 塩の街 wish on my precious

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有川浩さんの「塩の街 wish on my precious」を読み終わりました。
第10回電撃ゲーム小説大賞の大賞受賞作です。

生きている人が次第に塩へと変わっていってしまう<塩害>に覆われた世界。
原因もわからず対処もできず、いつ誰が塩害にあってもおかしくない状況で、ひっそりと二人暮らしを営む真奈と秋庭。

きれいごとだけではやっていけない世界で、登場人物たちのあさましい想いをしっかりと描いています。
極限状況で生きる人たちの心情をまざまざと見せ付けられるようで、読んでいて苦しかったです。
「Scene 3」の歌詞だけで、心の弱いところをかき鳴らされましたが、これは個人的な感傷ですね。
そして、やはりと言うのでしょうか、エゴまるだしの愛を語るあたり、有川作品のルーツはここにあるのですね。

ハードカバー版では、大幅な改稿とさらに短編もついているそうなので、そちらも読んでみたいです……。

投稿者 utsuho : 13:22 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2008年12月 8日

有川浩 / レインツリーの国

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有川浩さんの「レインツリーの国」を読み終わりました。

十年前に読んだ「フェアリーゲーム」という本について、他の人のはどう思っているのだろうという思い付きからインターネットで感想を検索する伸。そこでひとみの書いた感想に出会い、伸とひとみのメール交換が始まる。
メール交換を繰り返すうち、伸は実際にひとみと会って話したいと思い……。

「フェアリーゲーム」の悲劇的なラストに対する、伸とひとみの捉え方の違いがそのまま二人をとりまく状況にも重なります。

誰しも人生にままならないものを抱えているもので、そこには他の人からはわからない辛さがあります。
それでも、その辛さを強さに変えて、歓びを引き寄せることができるのだと感じました。

この本は「図書館内乱」とのコラボレーションで、「図書館内乱」では小牧が毬江にこの本をすすめています。
小牧ならずとも他の人に勧めたくなる、聴覚障害者の複雑な心をしっかりと描いた、真っ向勝負の恋愛小説です。

投稿者 utsuho : 17:07 コメント (0) トラックバック (0) | 読書