2010年4月11日

近藤史恵 / エデン

エデン

近藤史恵さんの「エデン」を読み終わりました。
この作品は、「サクリファイス」の続編にあたります。

フランスのパート・ピカルディというロードレースのプロチームに所属する白石誓。
ツール・ド・フランスの直前になり、翌年のスポンサー撤退を知らされる。
チームに動揺が走り、選手がそれぞれ思惑を抱える中、ツールが始まる――

読み始めたら止まらなくて、一気に読んでしまいました。
あのもっとも過酷なスポーツと言われるツールの魅力がぎゅっと詰まっていました。

前作にあったミステリ分は、今回はほとんどなく、その分純粋なロードレース小説になっています。
強豪が火花を散らし、若手が台頭し、その中で一瞬の隙を衝く者がいて、全体が大きなうねりのような特別な夏の三週間。
チーム・タイムトライアルあり、ピレネー・アルプスのクライマー達の戦い、そしてラルプ・デュエズとくるのですから、たまらないものがあります。
実際のツールを楽しむように、小説のツールを楽しみました。

史恵さんはとても丁寧な描写でツールを描いていますが、もしかしたらツール・ド・フランスを知らない人には想像が難しい世界なのかもしれません。
でも、ツールを知らない人にも手にとってもらって、一緒にチカの活躍に心を躍らせてもらいたいと思います。

投稿者 utsuho : 21:00 コメント (0) トラックバック (0) | ロードレース,読書

2010年3月 4日

三浦しをん / まほろ駅前番外地

まほろ駅前番外地

三浦しをんさんの「まほろ駅前番外地」を読み終わりました。
多田や行天をはじめ、ルルやハイシーといった懐かしい面々との再会です。

今日も日常通りに営業を続ける多田便利軒の多田と行天。そして彼らに関わる人たち。
「光る石」でキラリと見せるのは、行天のえげつない業。
「星良一の優雅な日常」では、裏世界での実力者である星が、あちこちに振り回されている様子がおかしかったです。
そして最後の「なごりの月」で垣間見せる行天の心の奥と、多田のほのかな想いと。

やっぱり、何度でも幸せは訪れて欲しいと思いました。

投稿者 utsuho : 21:24 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2010年2月10日

誉田哲也 / 武士道エイティーン

武士道エイティーン

誉田哲也さんの「武士道エイティーン」を読み終わりました。
「武士道~」シリーズの最終巻です。

香織と早苗もいよいよ高校3年生となり、高校剣道の集大成を迎えます。
関東大会の県予選とか、ほんとうに懐かしい思いをしながら読みました。

香織と早苗の心の通じ合うような対戦、香織とレナの全国大会個人戦決勝のキリキリするようなせめぎ合いと、その場にいるような臨場感がよかったです。

そして、ところどころに挟まれるように、それぞれの登場人物の事情や思いがあって、人と人とのつながりが強く感じられました。

それぞれの道を歩みだした香織と早苗、これからもそれぞれの「武士道」を歩んでいくのでしょう。

投稿者 utsuho : 22:37 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2009年12月30日

有川浩 / シアター!

シアター! (メディアワークス文庫)

有川浩さんの「シアター!」を読み終わりました。

三百万円の借金を抱えた劇団シアターフラッグの主宰、春川巧は兄の司に借金の肩代わりを頼み込む。金を貸す代わりに司から突きつけられた条件は、「二年で借金を返済すること。それができない場合はシアターフラッグ潰せ――」

司と巧の兄弟愛、その存在だけで巧を動かした千歳、かなわぬ想いを胸に秘める看板女優の牧子など、登場人物が活き活きと描かれていて、面白かったです。
本気、本音で物事にぶつかる彼らは、読んでいて眩しかったです。

そして、鉄血宰相・司の一言一言の重いこと。司の言葉は、普通に仕事をしている私自身にも通用しそうな言葉でした。

この作品は、さあ、これから――!、というところで終わっているのです。
もちろん、続編出るんですよね、ね?

投稿者 utsuho : 10:29 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2009年11月23日

大西科学 / 晴れた空にくじら 3 浮鯨のいる空で

晴れた空にくじら 3 浮鯨のいる空で (GA文庫)

大西科学さんの「晴れた空にくじら 3 浮鯨のいる空で」を読み終わりました。
「晴れた空にくじら」シリーズの最終巻です。

読み終わった感想は……、ちょっと描写に無理がありすぎたなあ、というところです。
浮鯨のいる世界という設定を活かしきれていないというか、キャラの振る舞いが何を狙ったものなのか意図が読めないというか……、奥歯に物の挟まったような読後感でした。

私は大西科学さんの朴訥とした文章と世界設定が好きなのですが、この作品はいろんなものに手を出しすぎてまとまりに欠けてしまった気がします。

個人的には、襲撃鯱と鳥雷鯱の決戦など、緊迫感のある描写をもっと楽しみたかったです。

投稿者 utsuho : 22:19 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2009年10月14日

米澤穂信 / 追想五断章

追想五断章

米澤穂信さんの「追想五断章」を読み終わりました。

伯父の営む古書店で働く菅生芳光は、北里可南子から父親の書いた五編の小説を探してほしいとの依頼を受ける。
一編ずつ小説が発見されるごとに明らかになっていく過去とは――。

米澤さんの小説はどの作品も空気感がよく出ているのですが、この作品ではどことなく頽廃的な雰囲気がよかったです。
まだ携帯電話もインターネットもない時代の「ものを探すこと」の様子が描かれているなあと思いました。

結末の削除されたリドル・ストーリーと最後の一行の組み合わせ、謎を追っていくうちに明らかになっていく過去、どうしても書かざるを得なくなった親としての想いなど、構成がよく練られていて最後まで楽しめました。

秋の夜長にじっくり腰を落ち着けて楽しめる一冊です。

投稿者 utsuho : 16:43 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2009年9月27日

有川浩 / 植物図鑑

植物図鑑

有川浩さんの「植物図鑑」を読み終わりました。

冬の終わりの夜に、さやかは自宅の前で行き倒れている男を拾った。「咬みません。躾のできたよい子です」と言ったイツキとのルームシェアが始まって――。

さやかの家の近くの河川敷を舞台に、季節ごとにめぐる野草と物語の組み合わせは面白かったです。
有川さんならではのベタ甘ラブもしっかり入っていて楽しめました。

ただ、私の記憶というか思い入れとしては、ノビルがスパゲッティの具になったり、ノイチゴがジャムにされたりと、小洒落たものに料理されて美味しいと言っているのは、「ちょっとちがうかな」という気がしてしまいました。
ノビルだったら生でかじって悶絶したり、さっと湯がく程度で鮮烈な味を楽しむ。ノイチゴやグミなどは野生の渋味やえぐ味の中の甘味を味わって、食べ過ぎて腹を壊す。ツツジの蜜を吸おうとして花弁を噛んで口の中が青臭くなってしまうといった、小学生的な記憶が焼きついているんですよね。

まあ、小学生の精神ではベタ甘ラブな物語にはならないんですけど、物語との感覚ズレに、少々とまどってしまいました。

私自身の記憶や感傷はともかくとして、一章ごとの長さもちょうどよく、軽快に読んで雰囲気を味わえる一冊です。

投稿者 utsuho : 21:45 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2009年9月23日

ドロンジョーヌ恩田 / 嗚呼愛しき自転車乗り

嗚呼愛しき自転車乗り

ドロンジョーヌ恩田さんの「嗚呼愛しき自転車乗り」を読み終わりました。

私自身、ここ一年ほど体調不良やらもろもろのことで、ほとんど自転車に乗れていないのですが、まだ自転車に乗ることを捨てたわけではありません。

そんな自転車乗りにしかわからない心のうちを見透かしたようなエッセイの数々に思わずドキッとしてしまいます。
「レーパンでコンビニ」や「なぜかいつでも向かい風」など、身に覚えがありすぎて困ります(笑)

何度でも繰り返してパラパラとめくって、にやにやと楽しめる一冊です。
ああ、自転車乗りたくなってきました。

投稿者 utsuho : 10:38 コメント (0) トラックバック (0) | 自転車,読書

2009年9月 4日

有川浩 / ラブコメ今昔

ラブコメ今昔

有川浩さんの「ラブコメ今昔」を読み終わりました。
「クジラの彼」に続く、自衛隊での恋愛をテーマにした短編集です。

なんといっても「ラブコメ今昔」の千尋ちゃんがよかったです。
思いっきり突っ走ってあの手この手で挑戦する千尋と、今村二佐とのやりとりが面白かったです。

「青い衝撃」は、有川さんの描く女性のドロドロした部分がよく出ています。
キューピッドの矢を外すことが大参事につながるようなことだとは思いませんでした。
バーティカル・キューピッドは一度見てみたいですね。

「秘め事」も自衛官の結構深刻な事情だと思います。
いつ何時、緊急事態に陥るかわからない自衛官ですから、心構えもいざというときの覚悟も必要なんですね。

有川さんならではの疾走感とベタ甘ラブと、そしてなにより取材した人たちに対する真摯な感謝の念の感じられる短編集です。

投稿者 utsuho : 22:33 コメント (0) トラックバック (0) | 読書

2009年8月30日

宮木あや子 / セレモニー黒真珠

セレモニー黒真珠 (ダ・ヴィンチブックス)

宮木あや子さんの「セレモニー黒真珠」を読み終わりました。

こぢんまりとした葬儀屋「セレモニー黒真珠」を舞台に、笹島、木崎、妹尾といった三人が織りなす、葬儀という人生最後の儀式にあたっての悲喜こもごもの人間模様。


宮木あや子さんの作品を読むのは初めてでしたが、登場人物が感情豊かでとても魅力的で、楽しかったです。
鼻からココナッツプリンを吹いてしまったり、叱ったり叱られたり、うっかり恋に落ちてしまったり、勢いのある描写に引き込まれて、ページをめくるのが楽しくて、一気に読んでしまいました。

この作品は、宮木あや子さんの初ラブコメだそうですね。
他にもどんな作品を書いているのか気になります。

投稿者 utsuho : 09:47 コメント (0) トラックバック (0) | 読書