2018年3月 4日
高田大介 / 図書館の魔女 (一)~(四)
ふう、一気に読み終わってしまった......。
心がふるえるってこういうことを言うんだなと、久しぶりに思いました。
山深い鍛冶の村に暮らすキリヒトが村を出て、「一の谷」王都にそびえ「高い塔」と呼ばれる世界最古の図書館に仕えるところから話は始まります。
図書館を統べるマツリカはまだ十代半ばに過ぎない娘でありながら、「一の谷」の政界を左右するほどの識見をそなえ、畏敬をもって「魔女」と呼ばれる存在。
感覚の鋭敏なキリヒトが声を持たないマツリカの声となり、市中で耳にしたささいな会話から国を揺るがす事態が動き始めていく......。
マツリカとキリヒトが言葉をかわしていくことで親密さが増していく様子、言葉ひとつで人の思惑だけでなく国々の情勢をも解きほぐしていく展開、脇役や敵役まで際立った登場人物たち、どこを切り取っても心の踊るような物語でした。
そして、屋台でパクつく春巻の香ばしさ、自然の生み出す鉱石の造形、川面にきらめく魚の姿など、些細な情景をとてつもなく細かく丁寧に書きながら、その丁寧さが時間を阻害することなく流れるように読み進めてしまえる。
まだ物語の動き出していないところから、その独特な文章に引き込まれてしまいました。
この世界、仮想世界でありながら、囲碁と将棋が遊ばれていて、さらに「駄目を詰める」「駒を突き捨てる」なんていう言い回しもさらりと出てきます。
また、物語の根幹をなす「変拍子の武勲詩」にも、藤野由佳さんのライブで出会ったブルガリアの民族音楽を思い出すなど、自分自身の経験を照らし合わせながら、語彙や想像力の限界まで使って楽しめました。
古今の文物を集めた図書館を舞台にしているだけあって、作品の中で描かれる分野も本当に多岐にわたっています。きっと他の読者は自分とは異なるところに心を惹かれているんだろうな......とも思いました。
ああ、自分の語彙が貧弱で、この面白さを表現しきれないのがもどかしいな......。
「言葉」を武器にするマツリカと同じく、作者もまた自身の言葉を賭して書き上げたことが伝わってくる作品です。
投稿者 utsuho : 10:58 コメント (0) トラックバック (0) | 読書
2013年5月30日
近藤史恵 / キアズマ
近藤史恵さんの新刊「キアズマ」を読み終わりました。
自転車ロードレースの世界を舞台にした「サクリファイス」シリーズの新刊ですが、これまでとは登場人物も舞台も変わって、大学生の自転車部を描いたものです。
それぞれに抱えたものや、想いが絡まりあって、熱いながらも、どこか重苦しさもただよう作品でした。
「サクリファイス」で登場したあの人もチラリと出ていたりして、いずれ世界が重なることもあるのかなと思うと、これからの展開が楽しみです。
投稿者 utsuho : 23:49 コメント (0) トラックバック (0) | ロードレース,読書
2013年5月19日
米津一成 / 追い風ライダー
米津一成さんの「追い風ライダー」を読み終わりました。
ロングライド、レース、ブルペ……と、自転車をテーマにした短編集です。
それぞれのエピソードがゆるくつながっている様子は、まるで自転車で走っていてすれ違ったり軽く挨拶したりする感じに似ていると思いました。
本気で楽しむと言ってもいろいろな楽しみ方のある自転車という乗り物が、この本を読んでますます好きになりました。
投稿者 utsuho : 22:59 コメント (0) トラックバック (0) | 読書
2013年2月17日
長沼毅 / 宇宙でいちばん面白い脳がしびれる科学の時間
長沼毅さんの「宇宙でいちばん面白い脳がしびれる科学の時間」を読み終わりました。
この間の新居昭乃さんとのトークイベントが面白かったので、著作を手にとってみました。
「宇宙の時間」「地球の時間」「生き物の時間」「テクノロジーの時間」と科学全般にわたって幅広く話しています。
初めて知ったことなどもたくさんあったけど、この本から得たものは「知識の底上げ」と「考えるための手がかり」だなぁと思いました。
例えば、長沼さんは人間とチンパンジーが持つ「同種殺し」のDNAを「凶暴性」と言っていますが、私自身は、「そのDNAは「不安」を強く感じるDNAでもあるのではないかな」と思ったり。
ちょっと驚いたのは、宇宙では廃熱ができないということです。
「宇宙空間は絶対零度の真空世界」という印象が強かったのですが、そもそも真空だったら熱を交換する相手がいないんですね、なるほど~。
いろいろなことに対して、うなずきつつ首をひねりつつ、言葉もわかりやすくてとても楽しめました。
投稿者 utsuho : 23:32 コメント (0) トラックバック (0) | 読書
2013年1月26日
近藤史恵 / カナリヤは眠れない
近藤史恵さんの「カナリヤは眠れない」を読み終わりました。
施術を通して患者の身体の声を聴く、変わり者の整体師・合田力。
摂食障害・セックス依存症・買い物依存症といった、現実の問題と、そこに付け入ってくる悪意の存在。
現代社会ならどこででも起こりうるものを扱いながら、そこまで深く暗いところには手を入れず、登場人物の皆が自分のできる範囲でなんとかしようとあがく。
話のテンポも調度良くて、一気に楽しんでしまいました。
史恵さんは変わり者の探偵役を描くのがとても上手です。
合田力も、「ビストロ パ・マル」シリーズの三舟シェフに通じるものがあります。
投稿者 utsuho : 23:51 コメント (0) トラックバック (0) | 読書
2012年8月29日
有川浩 / 空飛ぶ広報室
有川浩さんの「空飛ぶ広報室」を読み終わりました。
「自衛隊の広報活動」にスポットを当てた作品は新鮮でした。
きっと有川さんはものすごい量の取材を行なっているんだろうな、ということが、文章の端々から感じられます。
しかしまあ、出てくる人たちの誰も彼もがねじくれちゃって、大変なこと。
それでも皆さんの前向きにほどけていく様子が、読んでいて心地いいです。
そして、最後の「あの日の松島」。
やっぱりこれを書けるのは有川さんだからだなあ、と思います。
投稿者 utsuho : 23:15 コメント (0) トラックバック (0) | 読書
2011年8月 8日
近藤史恵 / サヴァイヴ
近藤史恵さんの「サヴァイヴ」を読み終わりました。
「サクリファイス」の世界を舞台にした短編集です。
「老ビプネンの腹の中」では、パリ~ルーベが舞台です。
「クラシックの女王」または「北の地獄」と呼ばれるパリ~ルーベの臨場感、読んでいるこちらも興奮します。
そして、「スピードの果て」では伊庭が世界選手権に挑戦します。
このニ編は、現実でのパリ~ルーベを完走した別府選手や、世界選手権のスプリントに絡んで9位をもぎ取った新城選手のことを、あらかじめ知っていたかのようなタイミングで、とても嬉しくなります。
他の短編も、登場人物それぞれの思惑がよく絡んでいて楽しかったです。
近藤さんは淡々とした丁寧な筆致で物語を綴るのですが、ロードレースの持つ魅力がよく描き出されている作品です。
投稿者 utsuho : 23:55 コメント (0) トラックバック (0) | ロードレース,読書
2011年4月26日
有川浩 / 県庁おもてなし課
有川浩さんの「県庁おもてなし課」、買ってから2日で読み終わってしまいました。
まあ、出てくる男性陣のかわいいこと、かわいいこと(笑)
こういう男性のかわいさをストレートに出せるのは有川さんならではです。
「観光特使」「パンダ誘致論」「おらが村構想」、お役所的な思考と現実的な感覚とのせめぎ合い。
どこまで現実で、どこから創作!?と首をひねりたくなるようなクロスオーバー。
そして有川さんなら外さないラブコメ要素もしっかり。
繰り広げられる土佐弁といい、有川さんの県粋主義がとてもよく出た作品です。
有川さんのBLOG「有川日記」の「それぞれにできること」という記事で、とても漢気あふれる選択をしています。
地方を元気にしたいという想いをひとりひとりが大切に持って、それぞれにできることをできたら、と思います。
投稿者 utsuho : 00:13 コメント (0) トラックバック (0) | 読書
2011年2月 1日
有川浩 / シアター!2
滅法面白かった!!
電車の中で読みながら、最寄駅に近づくのが恨めしくなるような本に出会ったのは、本当に久しぶりだなぁ……。
有川浩さんの「シアター!2」を読み終わりました。
「シアター!」待望の続刊です。
有川さんの感情表現はストレートに読み手のこちらに届いてくるので、思わずクスクス、ホロリときてしまいました。
電車の中や人目のあるところで読むのは結構危険です。
司の個人面談のシーンや、司と千歳のやりとりがとても良かったです。
歪んで捻れた司の心は、解きほぐれるのでしょうか。
有川さんのことだから、きっと順当には行かない気がします(笑)
あと2回の公演を残し、負債は132万6300円。シアターフラッグの行き着く先はいったい――。
それにしても、シアターフラッグは内部でラブラブだな!
投稿者 utsuho : 19:34 コメント (2) トラックバック (0) | 読書
2011年1月24日
小野不由美 / ゴーストハント2 人形の檻
小野不由美さんの「ゴーストハント2 人形の檻」を読み終わりました。
渋谷サイキックリサーチに来た依頼は、洋館で発生するポルターガイスト現象。
悪意すら感じられる現象は、はたして何者の仕業なのか――。
前作では読み慣れなかった不由美さんの一人称文ですが、今回はしっくりと読むことができました。
それにしても、不由美さんの文章は淀みがないです。
徐々に明らかになってくる謎と、どうしようもなく強まっていく現象。徐々に家の中の亀裂が深まっていく……。
この話がどこに落ち着くのか、息もつかせずに読んでしまいました。
これから先、あんな話やこんな話が、臨場感あふれる不由美先生の文章で読めるなんて、なんて恐ろしいことでしょう!
投稿者 utsuho : 00:53 コメント (0) トラックバック (0) | 読書